ガラード 301がやってくる?

電音RP52をベースにして製作した重量級プレーヤシステムによる音も, 流石に20年以上使い込んでくると, かってのような感激を与えてくれることの減って来た様な気がしてきます。 何百回聞いても飽きの来なかった愛聴盤にも,以前のようには手が伸びなくなってしまいました。 さらに加えて,置き場所を変えて使い方などに工夫をしようにも, 今更,かなりの重さがある機械を移動させるなど億劫なことこの上ありません。 そのためか,プレーヤシステムによって演奏空間のニュアンスや座席が異なって聞こえることからも, まだ見ぬ演奏会場に足を運ぶという訳ではありませんが, トーレンス TD124IIとかガラード 401を使った軽量級LPレコードプレーヤシステムを新たに組立, その音色や機構の違いなども楽しみながら, 取り出す回数の減っていたレコードを今一度聴き直すような次第となってきました。

そこまでは良かったのですが, 暫くする内,センタースピンドル軸受けに潤滑剤グリースを使ったガラード 301の存在がどうにも気になり始めました。 NYラヂオシティの舞台は巨大な油圧ジャッキを使って何メートルもせり上がるようにしてあるからこそ, 華やかで地に足をつけたような演目を提供できたに違いないと, 舞台による雰囲気の違いに思いを馳せるようになってきたのです。 丁度その頃です,オークション・サイトに薄汚れたガラード 301の登場しているのが目にとまり, 眺めている内に,こんな手間の掛かりそうなメカではきっと競争相手も居ないはずと考えたのか, 気が付けば入札しているではありませんか。

それからはというもの, さあどうなることやらと, 夜更けになれば様子見をと毎日を楽しみにしながら締めくくる様なことをしておりました。 しかし案の定というか物好きな競争相手が出てくるもので, 最後の10分間は互いにヒートアップして競争をやるような羽目となり, 当初算段していたよりも高い値段で応える自分がディスプレイの前に居るではありませんか。 それでも,思い切りよく分解して楽しむのには妥当と思える程度の(本人だけが納得できる)価格で落札することができました。 当時の価格はと調べると19ポンドとありましたので, 古くなるに連れて価値が上がると言われていることに当てはまることから, 正にビンテージものだと確信し思わず頬を緩め?てしまいました。 そこで,このグリース軸受けガラード 301を用いたプレーヤシステムを組立るまでの様子をメモ代わりに記録し, 参考までにまとめて紹介させていただきます。


何とかなりそう?!

提供された写真によると,かなりの年季が入っていることは明らかで, アルミ鋳物で出来たガラード 301デッキ上部の表面などは塗装も剥げて錆びも浮きボロボロ状態です。 それに対して裏面はまずまずの状態のようなので, 再塗装は表側だけで済みそうな気もします。 これに関しては, 塗料が安定して付着するように下地には同心円上の溝が刻まれており, 塗り直しがし易いように工夫してあるみたいなので, 何とかなりそうです。

駆動機構のひとつプーリは,後で触れますが国旗の模様からも分かるように, 電源周波数50ヘルツ用のものが付いていることにほぼ間違い在りません。 以前,ガラード 401用に製作した組込用50Hz小型交流電源が余ってはいましたが, これを使う際の消費電力は30Wと,モータ単独での2倍近くに跳ね上がってしまいます。 それでは, 台に組み込むべく用意したアクティブフィルタ2段構成イコライザの消費電力(0.93W)と比較し多過ぎるような気がします。 しかし,幸いなことにこのガラード 301ターンテーブルにはストロボ模様が入っていないので, デッキに組み込むストロボ装置を作るための手間をかける必要も無さそうです。 それならばと,特に不都合なことが起きない限りこの組込電源を使うのもやめて省エネに務めることにし, プーリを60Hz用のものと交換するだけにしておきました。 さて,注目の軸受けですが,もう少し先のことにしても無事プレーヤとして使えるようになった暁には, どのくらいの頻度でどの程度ネジを回してグリースに圧力をかけ給油すれば良いのかといったことなどを, 楽しみながら試すことができそうです。



代金の支払いを済ませて1週間が過ぎ, そろそろ日本に到着しても良い頃かな・・・帰宅するのが楽しみ楽しみ・・・とウィークデイを過ごしていた11月半ば週末土曜日の昼過ぎ, 50センチメートル角程の段ボール箱に収められて,オーストラリアからガラード 301が届きました。 送金してからまだ10日も経っていません・・・世界は思っていたよりも狭くなってきたようです。 それともこの時期は, 年末に備えた体制も整って荷物の動きが通常よりも早まったのかもと考えながら開梱し中身のチェックを開始します。 写真には写っていたゴムのワッシャが一個足らないだけで, その分だけゴミやらサビやらが着いていましたが, 後は全部揃っていて問題無さそう・・・です。

ターンテーブルは軸受センタースピンドルに取り付けたまま,運搬用モータ固定ネジは緩めたままでした・・・ 心配しながらターンテーブルを回し簡単に調べた感じでは軸に狂いは来ていません・・・厳重に梱包してあったお陰のようです。 隙間に木片を数個挟み込んでターンテーブルをデッキから浮かせ, センタースピンドル・シャフトの頭をドライバの柄で軽く叩いてグリース軸受け部からターンテーブルを外します。 アルミ鋳物製ターンテーブルを脇に避けておいてから, 真下に隠れていたアイドラ機構などの動作チェックをしてみます・・・ 汚れてはいるが異常なし・・・それにしてもガラード 301のアイドラの何て軽く回ること嬉しくなってきます。 次にモーターを手で回して速度制御用アルミ円盤の状態はと見れば, こちらはコンマ1ミリ程度の上下動が見られました。 しかし,このアルミの円盤を向かい合って挟む磁石の大きさを考えれば大した問題では無いでしょうし, この程度の狂いを補正するのはそれ程難しくはなさそうです。 最後に,ネジで止めてある電極を付け替え動作電圧を100Vに設定してから電源を繋ぎ, 消費電力が規定の16VA前後になること, そしてモータが静粛回転することを確認してみます。

以上の結果, スイッチに取り付けてあるスパークキラー内部のコンデンサが短絡しているため電源が入りっぱなしになることを除き, 外見こそ汚れてはいましたが全ての機構が無事であることが分かりました・・・まずは一安心です。 それではと,一番に件のグリース軸受けセンタースピンドル機構を取り外して簡単なチェックと掃除も済ませておきます。 グリースポンプ表面で固まっている古いグリースはキムワイプとアルコールで拭い, 軸受けから外したセンタースピンドル先端の錆はステンレスたわしと水を使い綺麗に落としてやりました。 それが終わったら, 早速デッキに取り付けてある残りの機構部品を全て取り外してバラバラに分解し大掃除をすることにします。 このガラード 301 ターンテーブル本体はストロボ模様無しなので,掃除も塗装も簡単に済みそうなことから, ここまで来るとこの先の作業も見えて気分も軽くなってきます。 また問題のあったコンデンサをスパークキラー内部から取り出し, 珈琲を片手にレコードを聴きながら部品棚を物色した際ヒョッコリと出てきた, RIFA社フィルム・コンデンサが寸法もほぼ同じだったのでこれと取り替えておきます。

さあっ!ペンキ塗りだ

それにしても, 50年は経過しているにもかかわらず, ガラード 301 センタースピンドル軸受けへの給油機構シリンダ内部に残っていたグリースの流動性には何の問題も無さそうです。 この辺りは,グリースとオイルとを適当に混ぜて粘度を調整したものとは別物を見ている様であり, 完成後の音のことを考えると心弾む思いがしてきます。 速度切り替えレバーが折れていたのは, 連動する内部機構の動きが硬い所為のようなので, せっかく別途入手した新しいレバーを些細なことで折ったりしないよう, 組立後に動作確認しておく必要がありそうです。 そこでまず最初に, マイナスドライバと自在スパナも使い, 取り付けてある機構部品全てをデッキから外してしまいます。

次は,パネル取り付け用の銅のリベットを裏側からドリルで削り, その跡に出来た窪みに釘を当て金槌を使って抜き落とします。 釘の直径は2ミリ程, 金槌は当然小型のものを利用します。 このパネル取り付け用のリベットですが, ガラード 301では穴よりも少し細いものを用いていることから抜けないようカシメ処理しているのに対して, トーレンス TD135だと丁度ピッタリの太さにし先端を尖らして圧入処理してあるのが, お国柄の違いを反映しているようで面白いところです。 さて,外した部品の片付けが済んだら,再塗装の準備に入ります。 どうしようもなくボロボロになっていた表面の塗料は, 水を流しながら弱い部分だけを金ダワシで刮ぎ落としてやります。 同心円上の溝が刻まれている鋳物製のデッキ表面が良く乾いてから,写真のような下地塗装をしてみましたが, その結果,塗装の酷く傷んでいた部分が周りより薄い色になって浮き上がり,かなり鮮明に区別できるようになりました。 この後, クリーム色の水性塗料で仕上げをしてやります。 塗料が乾いてから紙ヤスリで表面を整えて再塗装をしてやれば何とか様になりそうです。



重いのは苦手というかもう沢山なので, そのままでも少し重いガラード 301のデッキ本体を載せる台はうんと軽い桐で作ることにしました。 桐は, 樹脂分が少なくかつ繊維の長い木質部が気密性の高いセル状の構造をしているためか, 軽い割には丈夫な素材です・・・おまけに廉価なこと。 ところで,この木質部の主成分セルロースはガラス並みの強固な固体なのに対し, 酢酸ビニール系接着剤はミクロ的には液体の様に振る舞うと考えられることから, セルロース繊維が長くて樹脂分も少なそうな材質,竹の釘で接着面を貫くようにして固定しておきます。

この台の構造は,厚さが13ミリ程度の桐の板を2枚貼り合わせ,下から見ると2重になった箱のような作りにしてあります。 そして, 組み立ててから竹釘で補強した外面相当の枠組みの中に,内面相当の箱を軽く叩き込むようにして組み込んでおります。 そうすることにより,接着剤の液体的な振る舞いを少しでも抑えることができれば儲けものと考えた次第ですが, より長期的に安定した接着面を維持できるという利点もありそうです。 これもデッキと同時並行で塗装をしていきますが, こちらは有機溶剤を使った適当な色の塗料を選んでみました。

組立開始

塗装のために外しておいた機構部品を, ガラード 301 デッキ表面の塗料が1週間もすると乾いてきて表面も硬くなってきたので, 少しずつ取り付けてみることにします。 元のリベットと金槌とを使いパネル取り付けを済ませておいてから,駆動機構をデッキ裏に順次取り付けることにします。 そこで先ず最初にシリアルナンバを取り付け,塗装の硬くなっていることを確認してから, 次に操作レバー案内パネルの順でリベット留めしていきます。



リベット周辺を調べた結果, 塗装面は安定していることが分かったので, 今度は駆動機構を取り付けます。 そして,仕上げにグリース軸受けセンタースピンドルをネジ3組で固定します。 この際,グリース給油機構, グリースポンプがデッキ上側からも操作できる様に取り付け位置を合わせておきます。



ガラード 301 センタースピンドルの軸受け本体は, 軸受けのほぼ中央部横にある銅合金製給油機構ネジ内部に潤滑剤グリースを満たして組立, カップ状のネジを回すことによりポンプの様にして内部グリースに圧力をかけ, 平面軸受部にもグリースが行き渡るような構造にしてあります。 そして,デッキ上面側の軸受け取付け位置の直ぐ傍には指の入る穴が明けてあり, グリース充填よりも頻度の高いであろうこの作業が,デッキ上面からの点検作業と併せて出来るような工夫がしてあります。



台に載せてみよう

塗装仕上げ途中の台ですが, 試しにデッキ本体を載せてから電源を繋ぎ,この状態で簡単な動作チェックをしてみます。 ファンサイトからダウンロードした図面を使い取り付け寸法を合わせておいたお陰で, 予め開けておいた穴にガラード 301 デッキ本体がスムースに収まりました。 組み立てる前に良く掃除をしておいたのが功奏したのか,操作レバーに連動したメカの動きも滑らかです。 その結果,気になっていた速度切替レバーも,何ら問題無く軽く動いてくれます。 そして,台に伝わってくるモータの振動音も低レベルであり, これと言った対策をしなくても特に問題も出なかったことからまずは一安心です。 一方この段階で,錆の浮いていたターンテーブル本体についても, 表面に水を流しながら金属たわしで軽く掃除し, 錆の落ちたことを確認してから塗装仕上げをします・・・ 軸受けに取り付けたターンテーブルをゆっくりと回しながら, 水で薄めた水性ペイントで濡らすようにして塗っていくと・・・ 完成までもう一息のところに来たようです。

それにしても, 組み立てる際に指先からも実感できましたが, ガラード 401のものと比較して, ガラード 301の機構部品は仕上げがとても丁寧です。 普段は見ることのないところでのこの様な差異は,出てくる音にどの程度まで効いてくるのかは分かりませんが, 使っている時の気分は間違いなく良くなることでしょう。





グリース交換その1

別途計画していたガラード 301 専用イコライザは無事完成し, DCオフセット・レベルはと見れば無調整で1ミリボルト程度に収まっていました (DC直結アクティブフィルタ2段構成,ゲインは現在50dB弱に設定)。 こうなると先ずは試しに音出しをしてどんな癖があるのかを確かめておく必要があります。 ということで,アームSME 3009IIIを台に載せてネジ止めし, シュアーV15IIIを取り付けてバランス調整なども済ませ ・・・ストロボ盤も置いて速度を調べてみたところ・・・必要な回転数が出ていないではありませんか!  ならばと,速度制御用の磁石の位置をずらしてみましたが,残念ながら定速には届きそうにありません。 センタースピンドル軸受け給油機構の部品,グリースポンプというかカップ状のシリンダ内部に残っていたものは流動性が高かったので安心していた所為か, 油断をしておりました。

それではと,センタースピンドル軸受けを分解して細部の点検を始めます。 その結果,軸受け内部に残っていた潤滑剤グリースの粘性が高くなっていて抵抗が増えていること, また給油機構の一部, 内部にネジが切ってあるこのシリンダを回して圧力をかけようにも, シリンダ・カップ内部に残っていた分量が少ないため潤滑剤に圧力がかからず,必要な量を送り込めないことが分かりました。 こうなってくると, 今となってはプレミアの付いているガラード 301 純正品グリースを入手するか代用品を探すしか手はありません。 しかし純正品の入手には時間が掛かりそうなので,グリース溜めに残っていたものを参考にして, 取りあえずは代替え品を探し出し使うことにします。 といっても, 近くには専門店も無さそうなので,普通に売っているチューブ入りテフロン添加シリコングリースを買ってきて試すことにしました。

軸受け内部に残っていたグリースを全て拭き取り,この油がこびり付いて汚れたアンティークな軸受けにモダーンな白いグリースを充填してみます。 シリンダ・カップにグリースを充填しネジを回す圧入操作を繰り返したところ, 3回目には指先にですが満タンを示す硬目の手応えが伝わってきました。 この状態で,ガラード 301のターンテーブルを回しながら様子を見ると, ホンの少しの間をおいてから, 軸受け上部へとグリースが押されて出て来るではありませんか。 これなら軸受け内部の隅々にまでグリースが行き渡りそうです。 暫くしてからターンテーブルの回転数を調べたところ,定速になっていました・・・どんな音がするのかを試すことが出来ます。 早速にモノーラルのレコードを載せてから静かに針を下ろしてみます・・・ 同じカートリッジそして同じアームなのにガラード 401よりも音がより中央寄りにまとまっている気がしました。

先ずは特徴的な違いが出ている様子だったので,お試しはこの程度でやめておくことにします。 次に時間が取れたときには, 専用イコライザの入力インピーダンスを100キロオーム以上にするとか, 接続ケーブルの静電容量はメートル当たり約110pFあったのでこれを短くして高域の癖がどう変化して聞こえるのかを確かめてみたり, もう少し粘性の低いグリースが在るのであればそれに交換して, などなどといったことを試してから仕上げに持って行こうと思います。 それにしても,オリジナルのグリースは適度な粘性のモノを選んでいるみたいです。 今回用いたものでは, センタースピンドル軸受け底面に対しては問題無さそうですが, 軸受け側面に関しては粘性が高過ぎるみたいで, グリースが軸受けの隅々にまで行き渡ってからは定速回転になるまでの時間が長く掛かるようになってしまいました。 重合度の低いシリコンオイルを混ぜて粘性をもっと低くする手もありますが, オリジナルのグリースを入手して使うのが手っ取り早いのかも知れません。



グリース交換その2

何日か使っているうちに, テフロン添加とはいえシリコングリースの粘性が高いことに依る, 起動時間の長くかかるのに嫌気が差して来ました。 それでも最初のうちこそ何とか定速まで達してはくれたのですが, 残留していた古いグリースが悪さをしたのか, 新しいのが隅々にまで行き渡った所為なのか, いつまで待っても定速にまで届かないところに来てしまったのです。 これではどうにもならないので, またもやグリース交換です。

今度はスプレィ缶に入った粘性の低そうなものを試してみることにします。 良く洗ってから乾かしておいた透明ガラス容器の中にノズルを向けてスプレィし中身を取り出します・・・まるでお菓子の材料「葛」のように見えてきます。 この状態のグリースは可成りのガスを含んでいますので, スプーンを使って良く掻き回すとかラップをかけて暖かいところで一晩寝かせるなどし, 充分にガス抜きをしておきます...油の臭いが無ければ一嘗めしたくなるような感じです。 しかし, ガス抜きが完了すると粘性はオリジナルよりもほんの少し高くなるようでしたので,こんなことをして遊んでいるよりも, 普通のウレアグリースを使って済ませる方が手っ取り早かったのかも知れません・・・ ちなみに,今回もキムワイプを使って軸受け内部を清掃したのですが ・・・テッシュペーパを使うと硬度の高い紙粉などのため軸受けの抵抗が増えたり傷付いたりして不安定の原因になり易いので・・・ 後始末の簡単なキムワイプが無い場合には,洗いざらしの木綿の布などを使うのが無難の様です。 これは, 例えば水洗い直後のガラス製品表面に残っている水滴をしっかり拭き取った際, 残留物が残るような代物では精密機械の手入れに使えないからです。

仕上げは, 綺麗になったセンタースピンドル軸受け内部への潤滑剤注入です・・・溢れて垂れたりしないよう分量を加減し, スプーンを使ってシリンダ・カップにグリースを入れてから軸受け本体に取り付け, カップの頭を回し,ねじ込むようにして軸受け内部へと送り込んでやります。 このようにしてグリース注入を数回繰り返していくと, 回す力が少し増えたような感じが指先に伝わってきます。 すると突然,センタースピンドル上部にグリースが押し出されて来ました。 今度のグリースは考えていたよりも低粘性のようです(現在使っているのはリチウム石鹸鉱物油グリース)。 それでも, センタースピンドル底面の平面軸受け部には,組み立てる前にたっぷりとグリースを塗っておきましたので問題は無いでしょう。 この状態でグリースのこれ以上の注入をやめて,デッキ上部に溢れた分は綺麗に拭き取り, センタースピンドルにターンテーブルを取り付け,回転の様子を見ることにします。 すると,今度は1回転もしないうちにピタリと定速に達するではありませんか・・・拍子抜けしてしまいました。 さあこうなると,何が何でも音出しして試さねばなりません。



どんな音かを聴いてみる

試しにMPSのステレオ録音を聴いてみました。 オーケストラをバックにオスカー・ピータソンのドライブするピアノがまるでサーカスの様に華麗に走り回ります。 CDでは聴かれなかった沢山の揺らめく炎のような煌めきが現れてはやがて消えていきます。 次はベツレヘムのモノーラル録音「バードランドの子守歌」(1954年録音, DECCA 4RC, 24bit 96kHz, 40MB)を試してみます ・・・それはもう充分に堪能できました・・・ 少しだけですが聴いている場所が違うようです。

こうなってくると,この新しく出来た舞台に乗せて,デューク・エリントンとカウント・ベーシーの競演盤 「ファーストタイム」(1961年録音, ステレオ, 24bit 96kHz, 127MB・106MB) とかベーシー楽団「ヘリコプター」(1957年録音, ステレオ, 24bit 96kHz, 125MB)を, イコライザの入力インピーダンスを高くした状態ではバド・パウエル「パリの大通り」(1951年録音, モノーラル, 16bit 44.1kHz, 17MB) とかクリフォード・ブラウン+マックス・ローチによるSL版「A列車で行こう」(1955年録音, モノーラル, 16bit 44.1kHz, 33MB)も, さらには,最近ご無沙汰しているセント・トーマス「St. Thomas」(1956年録音, 24bit 96kHz, 228MB)や モリタート「Moritat」(1956年録音, 24bit 96kHz, 339MB)とかジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスなどなども次々と回してみたくなってきました。 このガラード 301と比較したトーレンス TD124IIとは, ケースの材料も仕上げもほぼ同じ,組み込んでいるイコライザもほぼ同じ, そして取り付けているアームもカートリッジもほぼ同じにしているので, 基本的には同じ音なのですが,それでも微妙な雰囲気の違いは充分に出ておりました・・・この間の暇を見つけての作業には2ヵ月近くかかりましたが先ずは目標達成です。

どんな雰囲気で鳴っているのかを,著作権の切れたLP音源を上記説明文中のアンダーライン部とリンクし,試しに聴いてみることができるようにしてみました。 これらはどれも古い録音であることから,当時の録音を比較的新鮮に聴かせてくれるカートリッジということでデッカも使い, 当時には無かったであろう方式の自作イコライザ(入力抵抗118kオーム)により再生しています。 この再生出力レベルが1V前後のイコライザと自作加算器型プリアンプを組み合わせ,スピーカでモニタしながら,64ビット版Windows7のもとで, サウンド・エンジンとローランド製UA−25EXやRME製FF400を使い録音したものです。


It Might As Well Be Swing/ Frank Sinatra, Count Basie and Quincy Jones/ 1964


グリース軸受けガラード 301 プレーヤシステムがほぼ完成したのと日替わりしたのとで, 丁度この時節に合わせてクリスマスをテーマにしたものを部屋一杯に響かせてみます。 ひとつはシンガーズ・アンリミテッドのクリスマスアルバム, もうひとつはMJQのクリスマステーマによる変奏曲です。 これらを,イコライザの入力抵抗は少し高めの118キロオームにそして接続ケーブルを短くして, ほんの少しですが高域を煌びやかにして鳴らしてみます。 カートリッジの電気的負荷を変えたことから来る高域特性のうねりは, グラフィック・イコライザを使った際の少し薄まった様に感じる鳴り方とは異なっていて, むしろ濃厚になったかの様に聞こえて来るので臨場感が増すようです。 ですのでMJQの変奏曲などは,部屋の中の何処で聴いて居ても, 細い筋を何本も引きながら粉雪が舞い降りてくるかの様にクールに響き渡るのです(要アルコホル?)。



エトセトラ

グリース軸受ガラード 301 ターンテーブルデッキを使ったLPレコードプレーヤシステムが取り敢えず動き出しました。 グリース交換した次の日には,他は何も触っていないのに, いつもよりかなり大きいのではと思える様な強い音が出て驚くこともありました。 どうやら,会場を移し席も変えたかのような,思い描いていたような瑞々しい音を響かせてくれるようです。 聴いている空間が広がって,舞台の作りも良くなったかのように思えてきます。 これで,手軽に出かけて楽しむことの出来る素敵な演奏会場がひとつ増えたことになります。 また,簡単な調整だけで機構部の微振動も低減したことから, ホットに華やいだ舞台だけでなくクールに澄み渡った空間の提示にも何ら問題在りませんでしたので, この会場へと足を運ぶ?回数はかなり増えそうな気配です。

センタースピンドル軸受けへの給油頻度については, グリースが豊富に使えることもあってポンプのシリンダ部を週に1回転するようなことをしていましたが, 何かの拍子に内部に紛れ込んだかも知れない極微量の埃もこれを何回か続けて溢れ出た分を拭き取れば完全に排出できそうです。 それでもまだ,間に合わせに小さなゴム足を使ってプレーヤ台の支えにしていますし, 給油機構に残っていたのは汚れ方や透明感からするとリチウム石鹸天然油脂グリースではなかろうかという気もしてきますし, 同じグリースをガラード401でも試してみたりとか, 細かな調整とかも幾つか残っていますしで,楽しい作業がもう少し続きそうです。

それにしても,この様な古いメカニズムからこれだけ満足度の高い音が出て来るのには,或る意味不思議な気がします。 しかし良く考えてみると, 所謂SNR(信号対雑音比)は本来エネルギ値の比で見た性能評価指標です。 そこでこれをCDに当てはめると,非線型とはいえ電気エネルギ(電圧×電流×時間)の大きさを15ビット精度(約3万通り)の電圧値で区別しているに過ぎないことから, 電流は電圧に比例し時間誤差もゼロという条件で, アナログ電圧の何処に誤差1/2単位が入るかを仮定し電力で比較してみると, この場合のSNRは何と最悪たったの15ビット相当すなわち45dBから最良32ビット相当96dBの間に分布するという意外な結果に至ります。 これは, 電圧1ビット分を一律6.02dBとして脳天気に電力換算したのとは大違いで, 最大出力近辺と最小出力近辺での誤差の影響に51dBもの大差が出てしまうことを意味しています。

勿論そうはならなくて, サンプリング周波数の半分から上を完全に取り除く低域濾波器(LPF)を通し, 理想的な動作をするADCおよびDACを使いかつ必要な時間をかけて処理すれば, 全て96dB(信号エネルギは誤差エネルギの最大40億倍)に揃うから問題無しということになっております。 しかし演算速度の速いアナログLPFそして性能向上著しいデジタル・フィルタとはいえ, 大袈裟に言えば15ビットの情報を基に32ビット (すなわち・・・ 誤った時刻での正しいビット情報は正しい時刻での誤ったビット情報と同じという意味からも・・・時間にして約10桁) の精度でエネルギ値を区別するという,人間のリアルタイム数十分の一秒以内で済ますには, 少しの手抜きも許されない様な大仕事をまかされていることになりそうです。 こういったことから, デジタル録音で並LPレコード相当のSNR60dB(信号エネルギは誤差エネルギの最大100万倍・・・エネルギ値も100万通り)をLPFに頼らず確保したいのであれば, どの出力レベルで誤差が入っても構わない様, アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)の精度を20ビット(時間精度も6桁)以上にしておくのが無難ということにもなりそうですが, この辺りには理論と現実の鬩ぎ合いが待ち構えております。



それでもこの様な事情, ADC/DACの性能だけに留まらずアナログ/デジタルLPFに要求されている技術水準もかなり高いところにあるということ, LPレコードには40kHzを超える音楽信号の記録されていることが珍しくないという事実, そしてノイズレベル以下であっても帯域を狭めれば比較的容易に拾い出せるアナログ信号の特性, もCDがLPレコードよりも優位に立ち難い理由のひとつではないだろうかと勝手な思いも巡らせながら, 珈琲カップの中に揺れる小宇宙越しに,ガラード 301の上で回るLPレコードを眺めているところです。

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