SONYテクトロニクス335

 日本で開発されたサービスメート・シリーズのオシロスコープ335型について思いついたことを書いてみます。 最近部品として何台かをまとめて廉価で購入し, これらを分解修理し動くようにしてみたのがそのきっかけです。 航空便で取り寄せたことから本体価格よりも輸送費の方が高くなってしまいましたが, 直ぐに作業に取り掛かれるような時間的余裕があった訳では無し, 単に早く様子を知りたかっただけに過ぎずで, これはあせらずに船便にしておいたほうが遊びとしては賢明だったかもしれません。 さて,送られてきたうちの半数は何故かブラウン管内部ガラス・ステムの一部が破損していて, その小片により蛍光面が少し傷付いており, かつ1台だけが辛うじて動作する様な状況でした。 ただ,予め写真で確認しておいた通り外観はどれも良好だったことから, 小型であることをこれ幸いにと何台かを並べては分解し, パズルの要領よろしく比較交換をしながら修理・調整してみることにしました。 それでも, 同時期において帯域幅が十倍もあった高性能機マイティ・シリーズのオシロスコープ485型とは少し作りが異なっていて, 半田付けしている部分が全体で十カ所以上も有ったことから, 基板を外しての交換作業に少し余計な手間がかかったのは予定外というか予想外でした。 しかし,裸眼で対処可能な適度の集積度でかつ作りも良かった所為か, 通電時に煙を出したりして被害を拡大させるような大きなトラブルも派生せず, 正常だったブラウン管の本数分だけではありますが, ほぼプラモデル感覚で修理を完了することができました。 そしてこの様な作業の中でたびたび感じたことは ”流石! SONYだなあ”という親近感のようなものでした。 日本の技術文化として世界に誇れる物をと, 各種技術製品を送り出してきた会社だけのことはあるようです。 米国の流儀と比較し人手はかかったことでしょうが, 小さな筐体の中に隙間無くかつ綺麗に回路基板などを詰め込む技術はこの当時のトップクラスだったかも知れません。 さらには,道具として大事に使おうという気にさせてくれる作りにもなっていて, 要所毎に押してある検印からは担当者の誇りすら感じ取れるようでもあります。 また, 正面レイアウトもさることながら, 使い易さに配慮をした全体のデザインや大きさそして重量バランスなどからは, 部屋の飾りにもなる工芸品に近い印象を受けてしまいます。 矢張りというか,変化に富む狭い国土を苦労して耕しながら営々と独自の文化を築いてきた, 民族のプライドみたいなものを感じてしまいます。 ちなみに道具としての目安の一つ周波数帯域は,仕様では35MHzになっていますが, 最高感度1mV/DIVでもこの性能は何ら問題なく確保されていて, 感度を落とせば50MHz以上まで軽く伸びております。 さらに,より高い周波数においても安定した波形観測のできることから, 現在でも十分に通用するオシロスコープであると考えられます。


 さて,この様な機械を道具として使う者にとっては, 外観だけ眺め操作するだけでは少し物足りない感じがすることでしょう。 そこでこの内部の様子を, 簡単ですが紹介してみることにしました。 大げさな言い方ですが, 当時における日米の技術文化の調和のとれた融合を見ることが出来るようで, 思わず,木造住宅における差異のことなどを想起してしまいました。 ところで,突起物を含まない外形寸法は(H)9.8X(W)19.2X(D)32.5センチメートルで, 重量は4.7kg標準とコンパクトに仕上げてあります。 以下,内部を写真撮影したものを掲載してありますのでどうぞご覧ください。

 上と右の側面 水平軸回路ブロックと入力信号用端子およびバッテリー用電源端子
 下と左の側面 垂直軸増幅器と入力アッテネータブロック周辺
 下と後の側面 垂直軸増幅器と入力アッテネータおよび電源ブロック
 上と後の側面 水平軸回路ブロックと電源ブロック

 垂直軸その1 同軸カムスイッチと抵抗およびコンデンサなどから構成されている
 垂直軸その2 機構部品として一つにまとまった2チャンネル分の入力アッテネータ
 垂直軸その3 垂直軸2チャンネル分とその周辺回路

 水平軸その1 水平軸回路とトンネルダイオードを用いたトリガ回路
 水平軸その2 水平軸カムスイッチ裏側の様子
 水平軸その3 ブロックとして一つにまとまった水平軸回路の様子

 CRTその1 静電偏向型CRT内部に見えている電極はテーパ付き垂直偏向板,前段加速電圧2kV
 CRTその2 胴体はセラミック製で前面表示部はガラス内面目盛付き,後段加速電圧10kV
 CRT用部品 高電圧注意...要高圧プローブ! 微電流でも刺激は超特大!!&赤色部は特に危険!!!

 電源その1 商用低周波電源トランスと平滑コンデンサ
 電源その2 各種切り替えスイッチと商用低周波電源部
 電源その3 高周波電源トランスと低損失の定電圧回路

 内部フレームその1 大黒柱に相当する内部フレームとCRTシールドケース
 内部フレームその2 ケースに巻いてあるのは長さ数mの遅延線

 ところで何故こんな古いオシロスコープを集めその上修理までして使っているのだろうと不思議に感じる方も多いかと思います。 その理由ですが, アナログ信号をアナログ表示機能を有していないデジタル式の測定器で監視する場合, 周波数成分とか位相特性などといった信号の特徴を良く理解しておかないと, 気付かずに見落としてしまうようなことが多々あるためでもあります。 例えば,ノイズなどの乗った複雑な波形をリアルタイムで観測する作業は, トレースが不連続になりやすいデジタルオシロに不向きなことこの上ありません。 これに対して,アナログ専用機の滑らかでかつシャープなトレースにより, 入力信号に相似な波形をリアルタイムで監視することにより, アナログ機器はもちろんですが, 身近にあるデジタル機器のノイズレベルや性能限界などをいとも簡単に知ることが出来てしまいます。 例えば,CDプレーヤを保守・改造する際には,出力信号に含まれる量子化雑音などの波形観測が必須事項となりますが, このようなことを手軽に行うには335型の様に100マイクロボルト程度までの信号を波形観測できる装置が必要になってきます。 そして,このような用途に適した測定器で当時最新鋭かつ高価だったものが, 今では個人でも入手できしかも簡単なメインテナンスだけで十分使えてしまうのです。 さらに付け加えると, エレクトロニクス産業分野におけるパラダイムシフトのため, 今日このレベルのものを覇を競ってまで作るようなことが無くなったという事情もあります。 これに対して, 尖端のそのまた先を要求する軍事関連分野がエレクトロニクス産業の主要な得意先であった1970年代初め頃から, 工業用および民生用機器の研究開発部門が測定器とは高価な必需品と見なしていた1980年代に続く長い期間, 毎回脚光を浴びるようにして登場していた当時の最新鋭機種には, 手に触れるだけで直ぐわかるように, 今の製品とは比較にならないほどの手間云々がかかっていて, いわゆるとても良い仕事をしているものが多いからでもあります。

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